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【REPORT】IM Labオープンセミナー「エコシステムイノベーションの現在」

2026/03/27

~ 一年のプログラムを振り返って・IM Lab 2026に向けて ~

経営者イノベーション委員会(以下EIC)が2025年8月4日に開催した「経営者イノベーション・ラウンドテーブル」を契機に、産学連携によるイノベーション・エコシステムの構築を支援する「IM Lab」が始動しました。これを受け、一般社団法人Japan Innovation Network(以下JIN)主催により「IM Lab」の2025年度の活動がおこなわれ、その最終プロジェクト発表が2026年3月7日に開催されました。

さらにこの日は、世界のクラスター開発、イノベーション・エコシステム、および地域競争力の向上を目的とした非営利のグローバル・ネットワークであるTCI Network(※正式名称:The Competitiveness Institute)との連携も発表となりました。

その様子を、レポートとダイジェスト映像にてお伝えいたします。
ダイジェスト映像は、以下の青枠内のYouTube動画を再生してご覧ください。



競争」の終焉と「共創」の号砲:日本企業がエコシステム経営に舵を切るべき理由

日本の産業界がいま、未曾有の転換点に立たされている。かつての「自前主義」や「単一企業の競争戦略」が限界を露呈する中、異なるプレイヤーが連携して新たな価値を創出する「イノベーション・エコシステム」が、生き残りのための唯一の解として浮上している。

この日、産官学が連携して次世代のイノベーション経営を模索するプログラム「IM Lab」の2025年度の最終回イベントが開催された。多士済々たる登壇者たちの議論から見えた、日本経済復活への設計図をレポートする。

戦略のパラダイムシフト――「競争」から「共創」へ

イベントの火蓋を切ったのは、JINのChairperson理事 紺野登氏だ。2000年代以降の戦略トレンドの劇的な変化をデータで示した。

「かつての主役であったマイケル・ポーターの『競争戦略』への関心が低下する一方で、『イノベーション・エコシステム』の注目度は急上昇している。もはや一社で勝てる時代は終わり、エコシステム全体で価値を最大化する時代に突入した」

紺野登氏は、日本企業のリーダー層も「エコシステム構築」を最重要経営テーマと認識しているものの、その「具体的な構築・管理手法」に迷っている実態を指摘。IMラボの存在意義は、その「モヤモヤ」を理論と実践で解消することにあると説いた。

共通言語としての「ISO 56000」シリーズ

エコシステムを構築する上で、最大の障壁となるのが「共通言語」の欠如だ。この問題に対し、JINの尾崎弘之氏は、国際標準化が進む「ISO 56000シリーズ」の重要性を訴えた。

特に注目すべきは、現在策定中の「ISO 56012(イノベーション・エコシステム・マネジメント)」だ。尾崎弘之氏によれば、これは企業、政府、アカデミア、市民を巻き込むための「共通のフレームワーク」となる。 「オーケストレーター(調整役)」や「コンプリメンター(補完者)」といった役割の定義を共有することで、不透明だった連携のプロセスが可視化される。2027年から2028年にかけての正式発行を見据え、日本企業がグローバルな競争力を維持するためには、この「標準」をリテラシーとして装備することが不可欠だ。

現場からの警鐘――「エゴ・システム」の罠を突破せよ

パネルディスカッションでは、株式会社ジェイフィール コンサルタントの佐藤将氏の巧みなモデレートにより、実践者たちの本音が飛び出した。

SUNDRED株式会社 代表取締役の留目真伸氏は、日本企業の多くが陥る「エゴ・システム(自社利益のみを追求する閉鎖的な系)」という罠を厳しく批判した。

「エコシステムを語りながらも、実際には顧客の囲い込みや自社主導のピラミッド構造を作ろうとして失敗するケースが多い。真のエコシステムとは、参加するすべてのプレイヤーが価値を得られる『利他的(アルトゥルイズム)』な設計から始まるべきだ」

この視点を補強したのが、株式会社富士通の仁英俊氏だ。同社は「Fujitsu Uvance」を通じ、AIと人を核にした「再生型エコシステム」の構築を進めている。仁英俊氏は、異業種連携(クロス・インダストリー)を成功させる鍵として、信頼性の高い「データスペース」の構築を挙げた。

「一社でデータを囲い込むのではなく、安全に共有できる環境を担保することで、社会課題の解決とビジネスの成長を両立させる」。まさに、大企業がオーケストレーターとして振る舞うべき新たなロールモデルが示された。

教育と地域の再生――「2040年問題」への逆襲

議論は産業論にとどまらず、社会の持続可能性と教育へも及んだ。北陸先端科学技術大学院大学 教授 永井由佳里氏は、深刻な「2040年問題」を背景に、創造性の再定義を提唱した。

「これまでの教育が重んじてきた『高度な同質性』は、エコシステムにおいては足かせでしかない。必要なのは、異なる個性がぶつかり合い、新しい価値を共創する力だ」

東洋大学 名誉教授 今村肇氏もこの意見に同調し、次世代(アルファ世代以降)に向けた「三層構造」の教育改革を提示した。正解を当てる能力ではなく、自ら問いを立て、AIと共創しながら行動に移す力。「知っている」だけでは世界は動かない、という強烈なメッセージが中高・大学教育の現場へ投げかけられた。

地域の具体的事例として注目を集めたのが、秋田県立大学 教授 森田純恵氏による「農業DX」の実践報告だ。

森田純恵氏は、スペインのカタルーニャ地方などの先行事例を引き合いに、日本に欠けているのは「データ主権(Data Sovereignty)」の意識だと指摘した。農家自身にメリットがある形でデータを管理・活用するガバナンスを構築することで、初めて「熊の検出AI」や「遠隔操作ロボット」といった先端技術が地域の血肉となる。

世界との接続――TCIネットワークとの戦略的提携

イベントのハイライトは、欧州を拠点とする世界最大のクラスター・ネットワーク「TCIネットワーク」との連携発表だ。 TCIネットワーク プレジデントの パトリシア・バルデネブロ氏は、エコシステムが単なる経済的手段ではなく、社会・環境課題を解決するための「結合組織」であることを強調。そしてイノベーション専門家のリシア・シール氏や ヨハン・グルンドストレム・エリクソン氏らグローバルな知見を持つメンバーとの連携により、日本型エコシステムを「世界標準」へと押し上げる原動力となる。

実験場としての「ラボ」――第2期への展望

イベントの締めくくりに、東京科学大学 副学長 大嶋洋一氏は、「1年目は理論を学び、共通言語を構築するフェーズだった。しかし、エコシステムは頭で理解するだけでは作れない。2年目は、よりリアルな『実験(プロトタイピング)』のフェーズに入る。このIMラボ自体を一つのエコシステムとして、参加者全員が主体的に動く場にしたい」 大嶋洋一氏は、地域や企業を巻き込んだ具体的なプロジェクトの始動を宣言。具体的には、留目真伸氏らが準備する「エコシステム経営診断」パッケージの展開や、実際の地域課題に挑むワークショップなどが予定されている。2026年度のIM Lab第2期。そこは、理論が現実を動かし始める、最もエキサイティングな実験場になるだろう。

IM Lab オープンセミナー「エコシステムイノベーションの現在」

名称:IM Lab オープンセミナー「エコシステムイノベーションの現在」
日時:2026年3月7日(土) 15:00~17:00
場所:東京都港区新橋1-1-13 アーバンネット内幸町ビル3階
CROSSCOOP セミナールームA
企画・運営:一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)

アジェンダ:
15:00 – 15:10  Opening & Introduction
         開会挨拶・ 本日の趣旨説明
         大嶋洋一 紺野登
15:10 – 15:35  エコシステムイノベーション概論
         エコシステム経営の「現在知」と理論的背景について(案)
         産官学のイノベーション 永井由佳里(北陸先端科学技術大学院大学)
         仮想企業からインタープレナーシップへ 留目真伸(SUNDORED)
         エコシステムに向かうIMS 尾崎弘之 (JIN)
15:35 – 16:00  IM Lab Open Days レビュー
         過去開催されたオープンイベントからの知見共有とフィードバック
         エコシステム戦略の基本概念
         エコシステムでスケール化するベンチャービルディングの作法
16:00 – 16:40 パネルディスカッション: IM Lab メンバーによる実践報告
         農業エコシステム(森田 純恵 秋田県立大学)
         大学を拠点とする取り組み(今村 肇 東洋大学)
         富士通のエコシステム(仁 英俊 富士通)
         ヘルスケアエコシステム
16:40 – 16:50  TCIN Network連携発表
         JINのアジア地域支部化とグローバルネットワークへの接続について
16:50 – 17:00  IM Lab 2026プログラム紹介
         次年度カリキュラムの案内とメンバー募集について


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