SIMA Good Innovation

【REPORT】第1回「SIMA〈グッドイノベーション賞〉」受賞事例インタビュー「NanoTerasu・地域パートナー」

2026/04/30

経営者イノベーション委員会(以下EIC)の第1回「Systematic Innovation Management Award(以下SIMA)〈グッドイノベーション賞〉」(2026年2月3日授賞式)において、グランプリを授賞された「NanoTerasu・地域パートナー」の高田昌樹氏<東北大学 副理事(ナノテラス共創担当)、ナノテラス共創推進機構 副機構長/教授、ナノテラス共創推進機構 Global Coalition Inst.副インスティテュート長、一般財団法人光科学イノベーションセンター 理事長>へ、受賞事例インタビューをおこないました。
その様子を、レポートと映像にてお伝えいたします。
映像は、以下の青枠内のYouTube動画を再生してご覧ください。



「偶然」を排し「仕組み」で勝つ ── SIMAが提起する「パラダイムシフト競争」の終焉と「共創」の号砲:日本企業がエコシステム経営に舵を切るべき理由

日本経済の「失われた30年」。その本質的な要因は、個々の技術力の欠如ではなく、イノベーションを組織的に再現し、スケールさせる「マネジメントシステム」の不在にあった。かつて日本企業は「品質管理(QC)」によって製造現場の規律を世界標準へと押し上げたが、今求められているのは、経営の現場における「イノベーション・マネジメント・システム(IMS)」の実装である

第1回「SIMA〈グッドイノベーション賞〉」は、単なる製品の優秀さではなく、持続的に価値を創出し続ける「組織能力(ケイパビリティ)」を評価する、世界でも類を見ない試みである。その中で最高賞(グランド賞)を受賞した「ナノテラス(一般財団法人光科学イノベーションセンター)」は、日本の研究開発(R&D)戦略を根本から書き換える「新たなOS」を提示している。

ナノテラスの本質:巨大な顕微鏡を超えた「官民共創」のプラットフォーム

東北・仙台の地に誕生したナノテラスは、太陽の10億倍という圧倒的な明るさを持つ放射光を用い、物質をナノレベルで可視化する巨大な「ナノレベルの顕微鏡」である。しかし、その真の価値は技術的スペック以上に、科学技術の社会実装を劇的に加速させる「運営システム」にある。

従来の国の研究施設は、納税者への説明責任を果たすための「公共財」として設計されており、公平性や透明性を重視するあまり、審査や手続きに多大な時間を要していた。これに対し、ナノテラスは「コアリション(有志連合)」という「クラブ財」の概念を導入した。出資した企業は、面倒な審査をショートカットした「ファストトラック」で施設を即座に利用できる。半年も経てばニーズが変わる民間企業のスピード感に合わせ、手続きの「お見通し(省略)」を可能にしたこの仕組みは、R&Dガバナンスにおけるパラダイムシフトである。

高田昌樹氏は、構想段階から2016年までの間に、約2,000回に及ぶ個別企業面談を対面で実施した。そこで浮き彫りになったのは、「分析結果を得るだけではなく、社会実装(課題解決)まで伴走してほしい」という現場の切実な声であった。このフィードバックを受け、ナノテラスは単なる計測施設ではなく、産学のサイエンティストやデータサイエンティストが連携し、企業の課題解決を支援する「データハブ」としての機能を確立したのである。。

AI時代の国家戦略 ── 「質感」の数値化と知の継承

現代のAI競争において、日本が米中の資本力に対抗するための唯一の勝ち筋は、データの「量」ではなく「質(信頼性と精度)」にある。

ナノテラスが生成するのは、学術的に意味のある、精度に裏打ちされた高品質なデータである。これをAIに学習させることで、従来の「AI for Science」に留まらない、産業界のための「AI for Industry」を構築することを目指している。特筆すべきは、日本人が得意とする「素材に対するセンス」や「質感」「手触り感」といった定性的な感性領域をナノレベルで数値化し、AIに継承させる点である。人口減少社会において、人間だけでは伝承が困難になりつつある熟練の技や感性を、デジタル資産として未来へ繋ぐ仕組みがここにある。

地域自立の誇り ── 「身銭を切る」ことの意味

ナノテラスの建設資金の一部は、宮城県、仙台市、東北経済連合会といった地域が「身銭を切って」拠出したものである。これは、被災地である東北が、単なる国の出先機関を誘致するのではなく、自律した経済拠点として立ち上がるという「覚悟」の証である。

当初、中小企業にとっては「無縁な施設」と思われていたが、実際に食品メーカー(丸二食品など)がナノテラスを活用し、フリーズドライ食品の研究開発などで成果を上げ始めている。地域の優れた技術をナノレベルで証明し、自信を持って世界へ発信する。ナノテラスは、東北が東京中心の経済構造から脱却し、世界の中心へと繋がるための「強力な武器(ツール)」となっているのである。。

教育と文理融合と次世代育成 ── イノベーションの「翻訳者」を育てる地域の再生――「2040年問題」への逆襲

高田昌樹氏は、ナノテラスでの高校生向け実習において、必ず「文系の学生」も連れてくるよう要請している。科学データをただの数値として終わらせず、社会価値やストーリーへと翻訳(トランスレート)できる人材の育成こそが、日本のイノベーションを加速させる鍵だと確信しているからである。

「コアリション」という言葉をあえて多義的かつ緩やかに定義したのも、産・学・官の各ステークホルダーが独自のアイデアを持ち込み、制度を自律的に進化させるためである。この「緩やかな融合」こそが、日本に不足していた組織の壁を越えた流動性を生み出す。

失われた時代を超えて ── 日本の再起動

「新しいことを始めようとすれば必ず批判される」。高田昌樹氏自身、ナノテラスの企画時には「できるはずがない」という激しい逆風に晒された。しかし、その批判を乗り越えて実現したこの施設は、今や日本の産業OSを書き換えるプロトタイプとなった。かつて日本がQCで世界を制したように、今度はナノテラスという「共通言語(システム)」を使い倒し、日本が再び世界をリードする時代を取り戻す。その挑戦は、今始まったばかりである。

第1回「SIMA〈グッドイノベーション賞〉」受賞事例インタビュー「NanoTerasu・地域パートナー」

日時:2026年4月20日(月) 13:00~15:00
場所:宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉468-1
東北大学青葉山新キャンパス内
会場:3GeV高輝度放射光施設 NanoTerasu (ナノテラス)

インタビュイー
高田 昌樹
東北大学 副理事(ナノテラス共創担当)
ナノテラス共創推進機構 副機構長/教授
ナノテラス共創推進機構 Global Coalition Inst.副インスティテュート長
一般財団法人光科学イノベーションセンター 理事長

インタビュアー
紺野 登
一般社団法人Japan Innovation Network Chairperson 理事
小林 暢子
システマティック・イノベーション経営賞(SIMA)審査アドバイザー


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