【REPORT】第1回「SIMA〈グッドイノベーション賞〉」受賞事例インタビュー「ダイキン工業株式会社」
2026/10/20

経営者イノベーション委員会(以下EIC)の第1回「Systematic Innovation Management Award(以下SIMA)〈グッドイノベーション賞〉」(2026年2月3日授賞式)において、グランプリを授賞された「ダイキン工業株式会社」の河原 克己氏<ダイキン工業株式会社 執行役員 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 産官学連携推進担当>へ、受賞事例インタビューをおこないました。
当日はダイキン工業株式会社(以下ダイキン)の大阪府茨木市のテクノロジー・イノベーション・センターにておこなわれた様子を、レポートと映像にてお伝えいたします。映像は、以下の青枠内のYouTube動画を再生してご覧ください。
EIC YouTube チャンネル
第1回「SIMA〈グッドイノベーション賞〉」受賞事例インタビュー「ダイキン工業株式会社)」
空調機という「ハード」から「社会的共通資本としての空気空間」への昇華
ダイキンは一般的な「エアコン(空調機)メーカー」の枠組みを大きく超えている。空調機という物理的な機械はあくまで手段であり、同社が目指す本質的な価値は、顧客が求める「健康・快適・安心安全な空気空間」を提供することにある。
地球温暖化による熱中症リスクの上昇や室内空気環境への関心の高まりから、目に見えない「空気」は生命と生活を守る不可欠なインフラとなった。同社が東京大学との「10年・100億円」におよぶ産学協業(東大インカ)の中で見出したのが、空気の「社会的共通資本(Social Common Capital)」化である。経済学者の宇沢弘文氏の概念を引く通り、空気は私有物ではなく人類共通の資産である。製造業から地球環境と生活を支えるプラットフォーム企業への脱却こそが、同社のイノベーションの原点だ。
「人を基軸に置く経営」:性善説が生み出す挑戦文化と絶対的な心理的安全
壮大なビジョンを現場で形にするのは「人」である。ダイキンの経営根底には、長年井上礼之名誉会長が社内に浸透させてきた「人を基軸に置く経営」が存在する。一人一人の社員が成長するからこそ、技術・営業・経営のすべてが強くなるという信念である。
組織のマンネリ化を破るため、経営トップは常に「大きな一手」を仕掛け続ける。東大インカ立ち上げ時には350名の技術者が東大へ乗り込み、累計4,000名以上の社員が交流することでR&D部門に「地殻変動」を起こした。
さらに特筆すべきは「前向きな失敗の許容」だ。同社の人事評価は、短期的な業績結果以上に「挑戦目標の高さ」を重視する加点主義である。「前向きな失敗は咎めない」「窓際族を作らない」という理念は、全世界10万人の社員に配布される行動指針「PCMビア」に明文化されている。失敗を咎めない心理的安全性が、社員に「出る杭」となる勇気を与えている。
ステージゲートを乗り越える「非定型マネジメント」とボトムアップ「海兵隊」のダイナミズム
売上高5兆円規模を誇るダイキンには、製品開発を厳格に管理する7段階のステージゲート方式(4層システム)が整備されており、標準的なモノづくりにおいて厳格に運用されている。
一方で、既存の枠組みに乗らない新しい価値創造やソリューション開発では「非定型(否定型)マネジメント」が機能する。プロセスに乗らないからとアイデアを却下するのではなく、責任者がボトムアップで柔軟なプロセスを採択することが許されているのだ。
その象徴が、大阪大学との産学連携から生まれた有志組織「海兵隊」である。ステージゲートで停滞していた重要テーマに対し、担当課長や営業副部門長らが部門を超えて結成。トップに直訴して予算と人員を獲得し、事業を推進させた。形骸化した枠組みを超え、構想を持つ人間が自由にアセットを編集できるフラットな風土が同社の真骨頂である。
「エゴシステム」を脱却し、社会に対する「問い」から共創するエコシステム構築
オープンイノベーションで自社利益のみを追う「エゴシステム」に対し、ダイキンは社内の「相互信頼」をそのまま社外へ広げている。パートナー選定では技術補完以上に、組織風土や文化の相性と深い信頼関係を重視する。
東大との包括協業でも、自社都合の技術委託を排し、五神真元総長との議論を通じて「社会に対してどのような価値を提供すべきか」という根本的な『問い』からゼロベースで共同設計した。
共通の『問い』から議論を開始することで、下請け関係ではない対等な「同志」としてのエコシステムが成立する。この姿勢は、社員主導で運営される女子ゴルフ「ダイキンオーキッド」や、世界各国の拠点で現地社員が浴衣を着て輪を作る「ボンダンス(Bon Dance)」といったインフォーマルな交流とも地続きであり、理屈を超えた信頼の基盤となっている。
スコープ3(排出量9割)の環境課題を価値に変えるAI故障予測とグローバル・サブスク
空調ビジネスにおける温室効果ガス排出量の9割以上は、製品販売後の使用時電力(スコープ3)に集中している。この構造課題に対し、同社はデータとAIを活用したエネルギーマネジメントをソリューション事業として展開している。
その代表が「AIによるエアコン故障予測サービス(ノンストップエアコン)」だ。稼働データをAI処理し「4ヶ月先に90%の確率で故障する」ことを高精度に予測。夏場の店舗等で致命的となる突然の稼働停止を防ぐ予防保全をサブスクリプション型で提供している。
さらに、エアコン購入が困難なタンザニアでは、現地スタートアップWASSHA(アフリカの未電化地域でIoTを使った電気の量り売りを行う東京大学発の日本企業)と組み、1日単位のエアコン・サブスク事業を立ち上げ黒字化に成功。トヨタの「ウーブン・シティ」や鈴鹿市スマートシティでの次世代エネルギー制御への挑戦にも直接繋がっている。
完璧な予測に頼らない「適応的強み」:日本企業がグローバル市場で勝つための構想力
米中企業とのスピード感の違いについて、河原氏は「リスクマネジメント意識と許容量の差」を指摘する。ミスを恐れてリスク回避を徹底するあまり、「リスクを取らないことが最大のリスク」になる日本の現状に対し、資金戦やAIモデル競争で正面突破することは難しい。
しかし日本企業には「どんなシナリオになっても現場で適応しきる力」という本来の強みがある。ダイキンの勝ちパターンは、完璧な未来予測に頼るのではなく、変化に対する柔軟な対応力と準備を維持し続けることだ。 局所的な品質管理(QMS)を超え、社会に対してどんな価値を提供したいかという強固な「構想力(ビジョン)」と「問い」を持つこと。それによってリスクを取る理由が明確になり、意思決定速度も上がっていく。SIMAグランプリ受賞に象徴されるダイキンの実践は、日本産業が再び世界で勝つための「新しい産業OS」の確かなヒントを示している。
















第1回「SIMA〈グッドイノベーション賞〉」受賞事例インタビュー「ダイキン工業株式会社」
日時:2026年6月19日(金)11:00~12:00
場所:大阪府摂津市西一津屋1-1
会場:ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター
インタビュイー:河原 克己
ダイキン工業株式会社 執行役員 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長(産官学連携推進担当)
インタビュアー:紺野 登
一般社団法人Japan Innovation Network Chairperson 理事
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